安心して治療ができるためには

よく週刊誌などの特集に「安心して治療が受けられる歯医者さん」とか「安心して治療が受けられる歯科医院の選び方」などと書かれた記事を見る事がありますが、「安心して治療ができるためには」、前記の標題とは似ているようでいて少し違和感がありますよね。
これは患者さんの為の標題ではなく歯科医師のための標題です。
さて安心して治療を行うためにはどうしたらよいのでしょう。
① 患者さんを良く問診する
② 現病歴を把握する
③ 全身の既往歴を把握する
④ 家族の病歴を把握する
⑤ 良く現症を診察し、診断名を確定する
⑥ 治療方針を考える
⑦ 治療方針を患者さんによく説明しその治療法の良い点劣る点を理解していただいく
⑧ 治療法に対して了解をいただく
⑨ 治療を開始する
⑩ 治療中も細心の注意を払う
⑪ 患者さんの治療法に対する理解度の変化、気持ちの変化などを推察しながらそのたびに十分な説明を行っていく
⑫ 良くコミュニケーションとり、時には話題は歯科治療から逸脱する事も話す

ただ・・・このように人と人とのお付き合いを交えて真剣に治療を行っても、結果が患者さんの思惑と少しでもずれていれば、訴訟にまで発展する事もあるかもしれない。
こんなに一生懸命頑張っているのに。「これでは安心して治療ができない。」
どうしよう?

話は少し変わりますが、40兆円と2.7兆円という金額が何か知っていますか?ついでに68,000という数字を知っていますか?いったい何の数字でしょうか?
40兆円、いやいや2.7兆円でもいいから目にしてみたい。ここで欲しいと言わないのは最初からあきらめているため、なんだかさみしい気がします。
68,000って?ではたねあかし、40兆円は日本の総医療費、2,7兆円は歯科の総医療費、そして68,000はおおよその日本の歯科医院の数です。これはコンビニより多いそうです。これに国立大学歯学部病院が12病院、私立歯科大学病院が17病院(これらは歯科の総合病院、色々な科と入院病棟も併設)、それからほとんどの都道府県には国立大学医学部がありその医学部の病院には歯科が併設その数おおよそ34施設、同じく私立大学医学部の病院に併設された歯科がおおよそ12施設、その他に地方都市の中核病院に開設された歯科の数、たくさん(わかりません)。ともかくたくさんの歯科施設がこの2,7兆円を分け合うわけです。

また別の角度から歯科医院の経済状況を見てみましょう。
保険請求点数が1件当たり平均1,200点前後、1軒の歯科医院の平均件数は180件(これは1日平均して25人から30人の受診が必要です)であって、1,200×180=216,000すなわち1点10円ですから2,160,000円これが歯科医院の保険診療の収入となります。

一軒で500~600件の請求を行う歯科医院もあれば50件に満たない施設もあり平均的に考えれば保険診療の収入は1軒の歯科医院あたり2,000,000円前後と考えられます。自費診療率が15%としても歯科医院の収入は2,300,000円前後と考えられます。
結構あるじゃない、と思ったのもつかの間、これだけの点数を上げるには歯科技工代が400,000円前後、材料費と薬剤費で300,000円前後、、あと歯科医院の光熱費やテナント代、人件費、開業資金の返済、リース物件の支払い、その他雑費などあっという間に寂しくなってしまいます。この金額は、開業して、うまく行ったとしても1年たったくらい、安定して患者さんが来ていただけるようになってからですから、開業して始めの頃はこうは行きません。
今、200軒開業して新規開業だけではありませんが160軒閉院する時代です。

こうならないためにはどうする?
頑張って少しでもたくさんの患者さんを診察し、たくさんの歯を治療し、1件当たりの点数を上げるしかありません。
ですから一人の患者さんにゆっくりと時間をかけ、ゆったりとした時間の中で最初に書いた様な診察を行い、治療をしていく。ということができないのです。

色々な理想を胸に歯科大学を卒業し、つらい研修医を終了、さあ希望に燃えて一歩を踏み出せば・・・この現実です。

ゆったりと安心して治療が行いたくてもできないこの現実、いったい何なんでしょうか?歯科医師たちはわかっています。どうすれば安心して治療ができるかと。でも出来ない。

歯科医師がお金持ちで、良い車に乗って、休日にはゴルフ三昧、これは一昔前の事、今は休日には普通の車に乗って在宅診療に出かける、休む事を知らず、診療費を稼ぐ、そうしないといつ160軒の仲間入りをするか分かりません。

また、全国の歯科大学の入学希望者が減少、私立の歯科大学では定員割れを起こしています。高額な授業料が一因とも考えられますが歯科医療の現実を今の若い人はしっかりと理解し歯科医療に明るい未来を見る事ができないからかもしれません。このまま歯科医師が減少して行けば、今は歯科医師過剰時代かもしれませんが、2世代3世代あとにはその逆もあるかもしれませんね。

極端に歯科医師の収入を増やせと言っていません。しかし、たとえば歯科の総医療費が2倍の5,4兆円になったらいかがでしょう。単純に1日の患者さんの数が半分でいい訳です。と言う事は1人の患者さんに倍の時間をかける事ができるのです。

如何ですか?そうすれば安心して治療が受けられ、安心して治療が行える事になります。

例えば次のような調査結果が出ている事ご存知ですか?確か熊本県だったと思いますが、歯科の総医療費が増加した分、医科の総医療費がそれ以上に減少したと言う結果です。
すなわち、虫歯の治療を行い虫歯予防に努める。歯周病のコントロールを行い、歯周病予防に努める。歯が無くなれば放置せず義歯などを入れ欠損補綴に努める。特別なことではありません。当たり前の事を行い口腔の健康に努めれば、体の健康を維持する事ができ、医科の総医療費が減少するわけです。糖尿病と歯周病との関係は今や常識となっています。

色々な分野で医科歯科連携の必要性が推進されようとしています。医科、歯科などと分けるのではなく医療関係者は一丸となって国民の健康を守っていかなければならない時代はすぐ目の前に来ています。

確かに財源は道端に転がっているわけではありませんが、限られた資源財源をいかに有効に国民のために使うか?いますぐ、日本人の英知を結集してその豊作を考えて行かなければならないと私は思います。